今立町環境基本条例懇話会提言(2)

 

 

今立町長 辻岡俊三殿

 

 

 

今立町環境基本条例を以下の案のように制定することを提言します。

 

平成13年  月  日

 

   今立町環境基本条例懇話会  

会 長 岡 敏弘  

副会長 石川忠一  

 〃  山田昭栄  

    椿原 勇  

    五十嵐靖子 

    市橋重幸  

    飯田忠祐  

    内藤 一  

    岡田秀樹  

    日野岡金治 

    梅田修二  

    中谷千代子 

    清水英二  

    小林頼子  

    田畑 肇  

    渡辺 栄  

    真柄二郎  

    加藤和男  

 

 

 

 

 

今立町環境基本条例懇話会案の解説

 

1.なぜ環境基本条例を作るか

都道府県や市で環境基本条例を制定する場合、それは次のような意義をもつ場合が多い。

1) すでにある公害防止条例などの、環境保全や規制に関する個別条例を、さらに基本的な理念の下に体系化する基本条例としての意義。

2) より広がった環境問題に対する政策の方向付けを示し、今後の個別施策の導入への根拠を与えるという意義。

3) 環境基本計画のような、新しい施策の仕組みを導入するという意義。

今立町の場合、環境保全に関する既存の個別条例をもたないので、環境基本条例の意義は、上記の2番目と3番目のものとなる。すなわち、今立町環境基本条例は、今立町が環境問題に積極的に取り組むことが必要であるとの認識の下に、環境保全施策の理念と方向付けを示し、いくつかの新しい施策の仕組みを導入するという意義をもつ。

 

2.今立町環境基本条例案の特徴

この条例案は次のような特徴をもつ。

1の特徴は、この条例案は文字どおりの「懇話会案」であるということである。つまり、「事務局案」が存在しなかったということである。そのために、環境基本条例とは何か、先進地はどのような条例をもっているか、今立町の環境の現況と問題点はどこにあるか、についての研修を行った上で、条文11つを懇話会で練り上げた。このやり方は、後で述べる基本原則中の町民参画を予め具体化したやり方であり、同じく基本原則中の環境教育の一種の実践でもあり、さらには、環境基本計画策定への予行演習とも言えるだろう。これは、条例案を作る過程の特徴である。

また、条例案を作るに当たっては、第1にわかりやすいこと、第2に論理的であること、第3に簡潔であること、第4に今立町にとって必要で十分な内容であること、に留意した。これが、条例案全般の外面的特徴になっている。

内容の特徴は次の4点である。

1に、環境保全施策の目的の1つとして「環境権」の保障を明記したことである。

2に、環境優先の原則を基本原則として掲げたことである。

3に、町民参画の原則を同じく基本原則として掲げ、かつ、それを実効あるものとするための規定を随所に設けたことである。

4に、やはり基本原則に、教育との連携を掲げていることである。町の環境保全施策をサポートし、時にはリードする環境市民を育むために、環境教育を特に重要視している。

 

3.条文解説

今立町環境基本条例案に何が書かれているかを一言で言うと、それは、環境保全施策の目的・原則・内容・手法を定め、各主体の責務を定め、環境基本計画と年次報告を導入し、町民参加を制度化し、環境審議会を設置するという内容をもつものであると言える。以下、詳しく解説する。

 

(目的)

第1条     この条例は、環境の保全について、基本理念を定め、ならびに町、事業者、町民および滞在者の責務を明らかにするとともに、環境の保全に関する原則と施策の基本となる事項を定めることにより、環境の保全に関する施策を優先的かつ計画的に推進し、もって現在および将来の町民の健康で文化的な生活の確保に寄与することを目的とする。

 

1条は、この条例の目的をうたっている。読んで字のごとしである。

 

(基本理念)

第2条 環境の保全は以下のことを目的として行われなければならない。

1 豊かで美しい環境の中で生きる権利の保障

2 持続可能な循環型社会の構築

3 多様な生態系の確保

 

2(基本理念)は、町の環境保全施策の目的を規定している。ここでは、環境保全施策の目的を、第1に、豊かで美しい環境の中で生きる権利の保障、第2に、持続可能な循環型社会の構築、第3に、多様な生態系の確保の3つに整理している。この3つを掲げれば、環境保全の目的は網羅できると、われわれは考えた。

人々が、公害にさらされないことや、良好な自然環境を享受することは、環境権の保障ということに集約される。しかし、それは、ただちにそうした環境が持続可能であることを意味しない。持続可能性の追求は、環境権の保障とは独立の目的であると考えられる。また、ヒト以外の生物が多様で豊かな生態系を形作っている状態を確保することは、上の2つとは別の目的であると考えた。したがって、これら3つの目的は、いつも調和するとは限らない。しかし、どれも追求すべき目的である。

環境権をうたったことはこの条例案の特徴であると言ってよい。

もとより、この規定は、人格権と区別される意味での環境権が、私法的な補償や差し止めの根拠となり得るという学説を支持しているわけではない。町が環境保全施策を行わなければならないことの根拠を、環境権に求めているのである。

この条項中の「豊かで美しい」という限定が、主観的であるという難点を免れないことは事実である。何が「豊かで美しい環境」であるかを客観的に決めることはできない。環境は公共財であって、環境に何を求めるかについて、個人個人の意見が対立することもまた必然的である。しかしながら、なにが「豊かで美しい環境」であるかについて、ある程度共通の認識がなければ、そもそも環境保全施策は成立しない。ここでは、そうした共通の認識がある程度存在する、あるいはそれが形成されうることを前提としている。

 

(基本原則)

第3条 環境保全の施策はすべての施策に優先して行われなければならない。

2 環境保全の施策は予防の原則に基づいて行われなければならない。

3 環境保全の施策は町民の参画によって行われなければならない。

4 環境保全の施策は情報の公開および共有の下で行われなければならない。

5 環境保全の施策は教育との連携の下で行われなければならない。

6 環境保全の施策の費用と効果を評価するように努めなければならない。

 

3(基本原則)は、環境保全施策を行う際の基本的な考え方を規定している。これは要するに、環境優先の原則、予防の原則、町民参画の原則、情報公開と共有の原則、教育との連携の原則、費用と効果の評価の原則である。

環境優先の原則は、環境保全はきわめて重要であって、行政施策のあらゆる場面において常に優先して考えなければならないという意味である。

予防の原則は、汚染や被害が広がってから対策を立てるのではなく、常に早め早めに予防的に対策を講ずるという考え方で環境保全施策を行わなければならないという意味である。

町民参画の原則の意味は明らかであろうが、この条例案の中では、第6条の町民の責務、第9条の環境基本計画の策定、第10条の年次報告への意見書提出、第18条の重要施策への町民参加、第19条の環境審議会委員の選出方法の諸規定に現れている。これだけ明確に町民参画の原則を具体化していることは、この条例案の特徴であると言ってよい。

情報の公開と共有の原則の意味も明らかである。この条例案の中でも、環境基本計画や年次報告の規定の中にこの原則が反映されているが、今立町情報公開条例の趣旨に沿って、すべての情報が公開されなければならないことは言うまでもない。

教育との連携の原則は、環境保全の実効性を確保する上で教育の果たす役割が大きいことを考えて掲げられた。この場合の教育とは小・中学校での環境教育のみに止まらず、広く町民への啓発も含めている。さらに言えば、環境市民は幼い頃からの、継続した、深い教育によって育まれるという認識である。この条例の中では第16条に反映されている。

費用と効果の評価の原則は、環境保全が良いことだからといってやみくもに実施するのではなく、環境優先を当然の前提としながらも、できるだけ少ない費用でできるだけ大きい効果をあげるように施策を工夫しなければならず、そのために施策を評価するよう努めることを求めている。施策の評価を導入することは、これからの行政全般の課題でもある。しかし、実際には完全な評価は難しく、それ自体に費用もかかる。また、評価の手法は徐々に進歩しつつあり、これから進歩していくであろう。それらを総合的に考慮した上で、評価を導入するように努めなければならないと言っているのである。

 

(町の責務)

第4条       町は、環境の保全に関する施策を策定し、実施しなければならない。

 

4条から第7条は、町、事業者、町民、滞在者等の責務を定めている。

町には、環境保全施策を策定し、実施する責務がある。これを規定するのが第4条である。

 

(事業者の責務)

第5条 事業者は、その事業活動を行うにあたっては、公害を防止し、自然環境を保全するとともに、環境への負荷を低減するように努めなければならない。

2 事業者は、その事業活動にかかわる製品その他が使用され、または廃棄されることによる環境への負荷を低減するように努めなければならない。

3 事業者は、町が実施する環境保全に関する施策に協力しなければならない。

 

5条は事業者の責務を規定している。

1項は、事業活動から発生する環境への負荷を減らすよう努めること(公害防止・自然環境保全を含む)が、事業者の責務であると言っている。第2項は、事業活動に関わる製品その他が、その事業活動から離れて消費者の手に渡ったり、棄てられたりするときに生じる環境への負荷についても、事業者は責任があることを意味している。ここで「事業活動に関わる製品その他」というのは、事業者が製造した製品その他ばかりでなく、使用する製品その他をも含んでいる。したがって、この規定は製造業の事業者だけでなく、すべての事業者を対象とするものである。第3項は、町の施策への協力の責務があると言っている。

 

(町民の責務)

第6条 町民は、地域の環境保全のための活動に積極的に参加するとともに、町が実施する環境保全に関する施策を共に検討し、その実現に協力しなければならない。

2 町民は、日常生活において、廃棄物の減量や省資源・省エネルギーなどの環境への負荷の低減に努めなければならない。

 

6条は町民の責務を規定している。

町民は、第1に、個人として環境保全の活動に参加すること、第2に、町政の主体として町の環境保全施策を作ること、第3に、そうして実施されることになった環境保全施策の実現に協力することが求められている。そして、第2項は、私的な日常生活における環境への負荷の低減に努めることが責務であると言っている。

 

(滞在者等の責務)

第7条 滞在者等は、町の区域における活動に伴う環境への負荷の低減に努めなければならない。

2 滞在者等は、町が実施する環境保全に関する施策に協力しなければならない。

 

7条は滞在者等の責務を規定している。これは、就労や旅行などで、町の区域に滞在する者の責務である。

 

(環境保全施策)

第8条 町は、基本理念の実現を図るため、次に掲げる環境保全施策を推進するものとする。

(1)     公害の防止及び水、空気、土等の自然環境を構成する要素の保全。

(2)     水資源の保全。

(3)     環境保全の役割を担う、森林、農地の保全、および有機農業の推進。

(4)     自然生態系の保護。

(5)     省エネルギーの推進と環境にやさしい新エネルギーの有効活用。

(6)     廃棄物を出さない地域社会を目指した、資源の浪費抑制と再利用、および、廃棄物の減量の推進。

(7)     有害化学物質に関する知識、情報の収集と、それらによる被害の未然防止。

(8)     地球温暖化の防止及びオゾン層保護への寄与。

(9)景観の保全・創造と歴史的文化的遺産の保護。

 

8(環境保全施策)は、町が推進するべき環境保全施策とは何かを、具体的に提示している。

ここに掲げた9項目が、今立町の環境保全施策として考えられることを網羅していると、われわれは考えた。このうち、(1)の「水」は環境の媒体としての水であり、(2)の「水」は資源としての水である。(3)は、環境保全の役割を担う限りでの森林と農地の保全を指している。「有機農業」は、循環的で環境低負荷の農業の理想的な姿を指しており、目指すべき方向を示している。この項目で言う「農地の保全」は、狭義の有機農業が行われている農地だけを指すのではない。(5)の「新エネルギー」は、『今立町地域新エネルギービジョン』で推進されようとしている新エネルギーのことである。

 

(環境基本計画)

第9条 町長は、環境保全施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、今立町環境基本計画(以下「環境基本計画」という。)を定めなければならない。

2 環境基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。

(1)     環境保全に関する目標及び施策の大綱。

(2)     前号に掲げるもののほか、環境の保全に関する施策を推進するために必要な事項。

3 環境基本計画は、町民の参加のもとで定めなければならない。

4 町長は、環境基本計画を定めるにあたっては、今立町環境審議会の意見を聴かなければならない。

5 町長は、環境基本計画を定めたときは、速やかにこれを公表しなければならない。

6 前2項の規定は、環境基本計画の変更について準用する。

 

9条は、環境基本計画について定めている。

環境基本計画こそ、環境基本条例が実現する具体的な施策の仕組みの最も重要なものである。環境基本計画を作って、それを実現していくというやり方が、環境保全に関する個別の条例などをもっていない今立町が、環境保全施策を推進していく上で、最も有効な方法の1つであると考えられる。第2項は、環境基本計画に盛り込まれる事柄をきわめて簡潔に規定している。第3項は、環境基本計画を定める際の町民参加を規定している。この条例の懇話会よりも広い範囲の町民の参画を想定している。さらに、条文には規定していないが、環境基本計画を具体化する際には、さらに広い範囲の町民の参画が必要になるであろう。

 

(年次報告)

第10条 町長は、環境基本計画の適正な進行管理を図るため、環境の状況、環境基本計画に基づき実施された施策の状況等に関する年次報告書を作成し、公表しなければならない。

2 町民は、年次報告書について意見書を提出することができる。

3 町長は、前項の町民の意見書を付した年次報告書について環境審議会の意見を聴かなければならない。

4 町長は、年次報告書について環境審議会から意見を受けたときは、その趣旨を尊重し、必要な措置を講ずるものとする。

10条は、環境基本計画の進行管理を図るために、年次報告書を作成し公表することを規定している。

2項から第4項は、年次報告書に町民が意見書を提出することができて、その意見書を付した年次報告書が、環境審議会の審議の対象となり、審議会の意見を町長が尊重して必要な措置を講ずべきことを規定している。

 

(規制)

第11条 町は、公害を防止し、自然環境を保全し、その他環境保全のため、必要な規制の措置を講ずるよう努めるものとする。

(協定)

第12条 町は、必要と認めるときは、事業者等との間で環境の保全に関する協定を締結することができる。

(助言、助成、負担)

第13条 町は、環境を保全するため必要があるときは、環境への負荷を生じさせる活動を行う者が、その活動に係わる環境への負荷を低減するための措置をとることとなるよう、技術的な助言、経済的な助成、または、経済的負担の賦課等の適切な措置を講ずるよう努めるものとする。

(町の施策における環境配慮)

第14条 町は、町の講ずる施策の策定および実施に当たっては、環境の保全に配慮しなければならない。

(施設整備)

第15条 町は、下水道その他の環境の保全に資する公共的施設の整備を推進するため、必要な措置を講ずるものとする。

(教育、学習)

第16条 町は、環境の保全に関する教育および学習の推進のため必要な措置を講ずるものとする。

(民間団体等の自発的活動の促進)

第17条 町は、事業者、町民またはこれらの者で組織する民間の団体が自発的に行う環境の保全に関する活動が促進されるよう、必要な措置を講ずるものとする。

 

11条から第17条は、環境保全施策の手法を列挙している。

規制や協定は、環境保全施策では一般的な手法である。第13条は、助言、助成、負担という手法を挙げている。このうち、負担の賦課は、廃棄物税などの環境課徴金あるいは協力金と呼ばれる手法を指している。第14条は、環境保全施策以外の町の施策一般における環境配慮義務の規定である。第15条は公共的施設の整備による環境保全についての規定である。町が現に実施している下水道を例示している。第16条は、環境教育・学習の推進に関する規定である。第17条は、民間団体等の自発的活動を促進する施策についての規定である。

 

(町民参加)

第18条 町は、環境の保全に係わる条例の制定または改廃その他環境保全上の重要な施策の実施に当たっては、町民の参加と意見の反映とが図られるよう努めなければならない。

 

18条は、環境保全に関わる条例の制定や改廃、その他の重要な施策の実施への、町民の参加が図られるよう求める規定である。環境基本計画の策定への町民の参加は、第9条で規定してあり、第18条は、その他の重要な施策に関わるものである。

 

(環境審議会)

第19条 町内の環境の保全に関して、基本的事項を調査審議するため、今立町環境審議会(以下「審議会」という。)を設置する。

2 審議会は次に掲げる事項を調査審議する。

(1)     環境基本計画に関すること。

(2)     年次報告書に関すること。

(3)     前号に掲げるもののほか、環境の保全に関する重要事項。

3 審議会は、前項に掲げる事項を調査審議する場合において、環境に関する情報と資料の提供を町長に求めることができる。

4 審議会は、環境保全等に関する重要事項について、町長、その他関係機関に意見を述べることができる。

5 委員は、環境に関し識見を有する者のうちから町長が委嘱する。但し、公募によって選ばれた町民を含めなければならない。

6 審議会は、原則として公開するものとする。

7 前各項に定めるもののほか、審議会の運営について必要な事項は、規則で定める。 

 

19条は、環境審議会についての規定である。

この規定によって、環境の保全に関して重要な問題が起こったときに、いつでも審議できる機関が設置されることになる。環境基本計画と年次報告書について審議することは、第9条、第10条で規定されるとおりである。

環境審議会について、この条例案で特徴的なことは、第5項の委員の構成の規定である。ここでは、委員の構成について細かく規定していない。ただ2つの縛りは、委員は環境に関して識見を有する者でなければならないということと、公募によって選ばれた町民を委員に含めなければならないということだけである。公募委員を含めなければならないという規定は、町民参加を確保することをねらったものである。また、ここで「環境に関して識見を有する者」とは、環境に関してよく勉強したり、活動したり、あるいは研究したりして、よく知っている者という広い意味のことばであって、必ずしも「学識経験者」を意味しない。また、環境審議会の委員は、各界の利害を代表する者から構成されるのでもない。あくまで、環境に関して識見を有する少数精鋭の委員が、自らの知識と良心とに基づいて、環境保全施策について審議するのが、環境審議会の役割である。

 

4.今後に向けて

今立町環境基本条例の意義は、冒頭で述べたとおりであるが、実質的に最も重要なことは、この条例によって環境基本計画が動き出すということである。もちろん、第11条から第17条で規定された手法を用いて環境保全施策を推進することができる。しかし、実際には、環境基本計画で、今立町の環境を例えば10年後にどのような状態にしたいかという目標ができ、その目標を実現するために個別にどのような施策が必要かということが明らかになって、具体的な施策が、第11条から第17条の手法のどれを用いて行われるべきかが検討されるという順序になる可能性が高い。その意味で、環境基本計画の策定が、条例制定後の最も重要な作業になるであろう。町民の主体的な参画ということを基本にしながら、環境基本計画が策定され、その計画が実行に移されることによって、この条例の目的に沿った環境保全施策が推進されることを望みたい。

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